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アヴァンティ 2005年 1月号

■「ああなりたくない」はずなのに・・・

食べ物の好き嫌いは、大したことはないが、人の好き嫌いとなるとちょっと話しがややこしくなる。

「とにかくカンに障る人なのよね」と若い友人は話しの最初から鼻息が荒い。「会議の時は最後まで発言しないで、ただ黙って聞いてて、最後に皆の意見をつまみ食いして評論するのよ」「頭いい人なのね」「最後まで聞いて下さいよ、研修会で皆が机や椅子を並べ替えていても知らん顔、準備が終わって上司が現れると、お茶なんかをかいがいしく運んだり、態度がガラリと変わって・・・」。「ふーんそれから」「夜の飲み会になるともっと元気になって、出世しそうな独身男性の横にベタッと座ってビールをついだり、水割りを作ったり、もうホステスさん以上」「へー徹底してるわね、しかし美人なんでしょ」と私。彼女は仕方なさそうにうなずく。「男性社員に人気があるのね」と火に油を注いでみる。

彼女は膨れっ面をして極め付きのエピソードを「麦茶1センチ事件ってあるんですけど」「なに、それ」「冷蔵庫の麦茶が無くなったら、最後に飲んだ人が、作り足すことになっているんですけど、彼女ガラスポットの底に1センチ分麦茶を残して冷蔵庫に戻したんです」「細かく見てるね。それにしてもずるい子だねー」。彼女についてのこのての話が延々と続いて、その日は別れた。

後で聞くとこの「麦茶1センチ女」は職場のホープ君と結婚したとのこと。結婚式も彼女らしく女性の同僚は招待せず、上司や取引先のお偉いさんばかりに囲まれて豪華な結婚式を挙げたのだそうな。「近頃の若い男は女を見る目がないね」なんて決まり文句で慰めたけれど、彼女はやるせなさそうだった。

忙しくてしばらくこの若い友人とも会えないでいた。久しぶりにご飯でもと待ち合わせたレストランで「え?なんだか違う」彼女の雰囲気が違う。化粧が、態度が。私は思う。ああはなりたくないと思っていたはずなのに真似してしまったのではないかしら。いじめっ子が転校して行って、残されたいじめられっ子が、いじめっ子に変身したなんて事はよくある話。

あれだけ細かく観察していちいち腹を立てていたのは嫌悪感だけではなかったのかもしれない。嫌いな人の中に自分の性格や欲望が重なって見える事ってあるから。「ああはなりたくない」と思う気持ちの裏側は・・・・。解るような気がする。

ニセモノ「麦茶1センチ女」は嫌いになれないな。