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アヴァンティ 2006年 12月号

■「食べる気持ちも熱く」

15年以上も経つでしょうか、伊勢志摩観光ホテルの高橋忠之シェフのお話を聞くチャンスがありました。
高橋シェフは英虞湾(あごわん)の海の幸を使い料理を芸術にまで高めた方で、世界各国から氏の料理を賞味するために日本を訪れる高貴なお客が大勢いらしたと聞きます。

私は高橋氏に「今までのゲストの中で一番エレガントにお食事を召し上がったのはどなたですか」と質問しました。
「グレースケリー」即座に答えが返って来ました。「日本人では?」「杉村春子さんです」私は好奇心を押さえられずに更にお聞きしました。「そのお二人の共通点は?」「スピード感でしょうか」。杉村春子さんが背筋を伸ばしてさっさと召し上がる姿が目に浮かびます。作りたての料理を一番美味しいタイミングを逃さずさっさといただくのもエレガントな作法の一つなのだとその時に知りました。

料理教室でも私が一番気を使うのは、いただくタイミングです。一斉に料理を仕上げてそろって「いただきます」をするために心をくだきます。やっと揃って「では」と手を合わせようとするときに席に着いていない人が一人はいます。たいていハンケチを取りに行くなどどうでもいいことで料理を冷ましてしまうのです。私はそのつど「月謝を倍にするぞ」と脅すのですが。カウンターに座って握られたお鮨をそのままに話に夢中の人。焼き肉や鍋物をぐずぐず食べる人も一緒に食事をしたくはありません。

先日も農家の取材で新米のおにぎりと味噌汁を出されたのですが、若いスタッフたちは遠慮をしてなかなか席につきません。やっと皆が席に着いてお箸をとった時には味噌汁はぬるくなっていて作ってくださった奥さんは少し悲しそう。スチール撮影の時に見学に来ていた人が私達に疲れが見え始めたのを悟って、たこ焼きを差し入れてくれました。熱々を食べさせようと走ったのでしょう息を弾ませています。誰かがすぐにコーヒーを沸かしました。
仕事の区切りはいつでもつけられる状態でしたが、ディレクターはダラダラ撮影を続けました。15分のたこ焼きタイムが後の仕事をパワーアップさせるのに、と冷えて行くたこ焼きを前に思いました。

熱いものを熱いうちに、冷たいものを冷たいうちに食べようと思わない人は人生の大切な何かを失っているような気がするのですが。